補選雑感 Part2

 注意: 前回の記事はこちらから。

補選雑感 Part1 - spiroooooool別邸 (hatenablog.com)

 なお、今回も敬称略とする。あしからず。

 

 Part1はざっくりと補選を振り返ったが、Part2では気になっていたことをあれこれ書きたいと思う。

 

両補選はなぜこのような投票率になったのか

まずは一般的な話から

 まずは投票率に触れたい。低投票率の場合は組織票がまとめられる党が有利と見る。本邦ではその立場にあるのは与党の自民党で、低投票率の選挙では勝ち上がる。

 今回の補選を見てみよう。参院徳島・高知の投票率は30%台、衆院長崎4区の投票率は40%台前半にとどまった。補選に関しては、一般的には衆院総選挙や参院普通選挙に比べると投票率が下がるのだ。そのため、先述のとおり、低投票率の選挙で起きる現象は比較的起こりやすく、今回の衆院長崎4区はそれに当てはまる、という見方ができそうだ。一方で、参院徳島・高知選挙区で起きた、一騎打ちで野党が「完勝」したケースは、珍しいと言ってよいだろう*1

 佐藤令の論文*2によれば、補選の投票率が通常の選挙の投票率に比べて低下する*3のは、何も今に限った話ではないようだ。ただし、通常選挙と同日の補欠選挙(例: 衆院総選挙のときに参院補選を行ったケース)は高くなるケースがあるようだ。

 この論文では投票率の推移とその結果に関する考察が主で、低下の原因を考察した事例というのはあまりない。総論として言えるのは、通常時とは異なるタイミングでの選挙である、というところがあるのかもしれない。以降からは各選挙区での「事情」を考えてみる。

 

参院 徳島・高知選挙区の投票率

 NHKの選挙データによれば、参院補選の当選挙区全体の投票率は32.16%だった。双方の県とも、通常の選挙においても、両県は低下傾向にあり、補選ということもあって殆どの自治体で投票率が落ちている*4徳島県に関しては過去最低の記録をたたき出している。

参議補選の投票率、徳島県で「低調」半減近い23・92%…候補2人とも高知県を地盤 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

 

 Part1に引き続き、NHKの選挙データを眺めて考えたい。

参院補選 徳島高知 | NHK選挙WEB

 NHKのデータには自治体ごとの各候補の得票と投票率がわかる。これを眺めてわかるのは、徳島県高知県では、投票率の傾向が違うことが窺える。今回の選挙に照らし合わせれば、徳島県では徳島市や鳴門市を筆頭に、有権者が多い自治体では軒並み20%台という低投票率という記録が残っている。

 一方、高知県は、大票田の高知市こそ30%台前半だが、少し離れた南国市や土佐市、ひいては地方の室戸市や、四万十市あたりでは40%以上の自治体も出てくる。つまり、高知県での投票率は比較的高く、徳島県では低い、ということが見えてくる。

 この理由を考えていきたい。まず考えられるのは、候補者の地盤であろうか。Part1でも触れたが、今回の候補者はどちらも高知の候補者だった*5。徳島の有権者からすると、身近な存在とは言いづらいのかもしれない。

 次に考えられるのは地域ごとの傾向。徳島県のケースを見てみよう。NHK政治マガジンでは補選告示*6前にこの合区の低投票率について考えるコラムをアップしている。これを読むとわかるのだが、高知県も低いのだが、徳島県の低さは際立っている。しかも、合区になってから、ある傾向が見られる。

合区の補欠選挙 カギを握るのは投票率~2023参議院徳島・高知補欠選挙 | NHK政治マガジン

 それは、候補者が高知に縁のある候補者同士の場合、更に投票率が低下する、というものである。高知県ではそういう傾向が見えてこない。また、鳥取・島根合区では、島根県で若干似た傾向がみられる*7。ただし鳥取・島根合区では、与党と野党で地縁が分かれており、島根の傾向はいくらか緩和されている側面があるかもしれない。

 そこから考えると、仮説ではあるが、合区選挙区の場合、その地元に縁があるか、というのが一部の地域の投票行動に現れているのではないだろうか。おそらく今回の補選でも、候補者がどういうことをやってきたのか、というのを理解することが、高知の有権者よりも大変だったのではないだろうか*8。ただし、これは数回の選挙の投票率を見ての結果でしかないので、もう少し観測する必要があるだろう。合区ならでは現象とも思うが、もしかしたら、北海道などで、候補者の地縁を比べながら考えてみると、似たような傾向が見えてくるかもしれない*9

 

衆院 長崎4区の投票率

 こちらは低投票率では与党が制する、という典型的なパターンとなった。そして思っている以上の差がついた。末次の惜敗率は86%台とまずまずだが、情勢を見た感触ではもう少し高い惜敗率*10になると思っていた。これは低投票率の主要因が大票田の投票率が低いことが影響していると考えられる。4区の場合は佐世保市で、ここが40%を切っている。逆に、平戸市や松浦氏は平均よりも高く、こうした地域で金子容三が得票を稼ぎ切った。共同通信出口調査をベースにした解説記事では、無党派の6割は末次精一に票を投じているため、野党候補としては無党派には最低限浸透していたのではないかと考える*11。そうなると無党派層が比較的多い大票田での低投票率は、末次にとっては痛かっただろう。佐世保市は末次の方が得票数は多かったものの、金子との差はわずか1,000票。金子は大票田で最低限の敗北で済ませたのである。

自民党、無党派層獲得で苦戦 衆参2補選の共同出口調査 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

 先に述べた通り、金子の勝因は自民党に近い組織票を集めきったことと、公明からの支援も十全に得たことに他ならない。選挙後には西日本新聞がこういう見出しの記事をアップした*12。きっちり公明の組織票もまとめ切ったのである*13

父・原二郎氏と福岡の創価学会訪ね1万票を“確約” 自民・金子氏が苦戦した選挙戦の舞台裏|【西日本新聞me】 (nishinippon.co.jp)

 組織票をまとめ切れなければ、もっと縺れた結果になっていた。そして、大票田の佐世保市投票率がもう少し高ければ、末次の当選の可能性は多少は上がったのではないだろうか。

 なお、長崎4区での選挙は、この補選が最後となる。先の「10増10減」で長崎県小選挙区は3つに集約されてしまうためである。個人的に気になるのは、衆院議員としての任期で、たとえ通しても任期が短く、何も仕事ができないで終わるのでは、という諦めに近い感情が有権者の心の中にあったのかどうか、というところが気になっている。そしてそれが投票行動に影響したか、ということも。しかしこれは時間をかけて歩いて分析をしない限り、なかなか見えてこないだろう。

 長崎4区の大部分は、旧3区域だった大村市や離島等*14を含めて、新たに3区という形でスタートを切る。構図はまた変わる点は留意したい。

 

補遺: 合区について

 2つの都道府県を選挙区とした合区は、2016年の参議院普通選挙から導入された。記事の末尾の脚注に示した文献の通り*15参議院選区間における「一票の格差」の解消に対する解決案としてこの合区案が導入された。このとき導入されたのが、鳥取・島根と今回のトピックにあがった徳島・高知の2選挙区である*16

 ちなみに、合区選挙区では、これまで自民党の候補が両選挙区で勝ち上ってきていた。今回の補選の結果はそれを覆すものとなった。

 

 

 

 

 

 

 

*1:野党が勝ったケースとしては、𠮷川貴盛が汚職で辞職したことに伴う北海道2区補選で松木謙公が勝った例などがある。ただし、この選挙では自民党員が出馬したものの無所属での立候補となり、自民独自の候補は擁立されなかった。

*2:佐藤令, 戦後の補欠選挙, レファレンス, 695, 76-105, 2005, DLサイト: 戦後の補欠選挙 - 国立国会図書館デジタルコレクション (ndl.go.jp)

*3:昭和・平成初期では通常選挙で60%ほどの率が補選になると40%台後半から50%台になる。

*4:落ちていないのは村長選が同時開催だった佐那河内村や広田の地元である土佐清水市などである。参考: 参院徳島・高知補選 有権者の関心低く 投票率過去最低32.16% 「地元候補いない」の声も /高知 | 毎日新聞 (mainichi.jp)

*5:広田は高知選出の参院議員および衆院議員だった経歴があり、西内は自民党高知県連の関係者だった。

*6:告示日は10月10日。なお、通常の国政選挙は憲法7条でいう天皇の国事行為に相当するために、公示という表現が使われる。ただし、補選の場合、地域が絞られたケースであり、公職選挙法33条等が適用されるため、告示になるようだ。

参考1: 【詳しく】選挙の公示と告示って何が違う?参議院選挙は? | NHK政治マガジン;

参考2: 参議院選挙:選挙の「公示」と「告示」が違うわけ、天皇の「国事行為」にあり : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

*7:とはいえ島根はどちらも50%以上はキープしており、そこまで大きな問題になるかというと、という側面がある。なお、Wikipedia鳥取県島根県選挙区のデータを参考にした。選挙関連のWikipediaは一応使えるシロモノになっている。

鳥取県・島根県選挙区 - Wikipedia

*8:日頃から政治に関心のある有権者を除けば。

*9:参院北海道選挙区は中選挙区なので余計複雑になるが。

*10:90%前後と思っていたし、当確が出るのは22時を越してからになると想定していた。

*11:金子は無党派層からは2割集めたが、浸透にはやや苦労したとみる。

*12:有料記事のため、残念ながら記事の内容は見出しと最初のパートしか分からない

*13:私の旧TwitterのTLでは、男女別の得票率の画が流れてきたが、金子が勝っていた。もしかしたら、この部分の影響があるのかな、と下の西日本新聞の記事の見出しを見ながら思った。

*14:壱岐対馬五島列島

*15:小松 由季, 参議院選挙制度の見直しによる「合区」設置 ― 公職選挙法の一部を改正する法律 ―, 立法と調査, 368、3-15, 2015,

pdf:https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2015pdf/20150904003s.pdf

*16:なお、導入に際しては、当地選出の議員や首長から反発があったという。

補選雑感 Part1

(注意: それなりに長くなるので、人物は敬称略で述べることになるがあしからず。)

補選の結果と個人的な感想

補選の結果

 10/22に、国政選挙の補選、徳島・高知合区の参議院選挙と長崎4区の衆議院選挙の補選が行われた。NHKの選挙のページからそれぞれの結果を下に示す。なお、この日には宮城県議選や所沢市長選等が行われた。

参院選 徳島・高知選挙区>

参院補選 徳島高知 | NHK選挙WEB

衆院選 長崎4区>

衆院補選 長崎4区 | NHK選挙WEB

 

 結果として与党から見れば1勝1敗という結果となったわけだが、事前の新聞などの情勢から総合してみると、概ねこの結果になるのは想定は出来ていたのではないだろうか、と私は見ている。ただし、当選に至るまでのプロセスに関して、2点ほど驚いたことがある。1つ目は徳島・高知の参院補選がゼロ打ち*1となったこと、2つ目は長崎4区のほうが私が想定していた以上に差が出た結果となったことだろう。

 

参議院補選 徳島・高知選挙区

 この補選は、前職の高野光二郎(自民)が、居酒屋にて秘書を殴打し、出血させた責で辞職したことに伴い、実施されたものである*2

秘書殴った自民の高野光二郎・参院議員、地元高知で辞職表明「取り返しのつかないことをした」 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

 補選では、自民党からは高知県議会議員だった西内健*3が、野党系からは広田一*4が無所属として出馬し、一騎打ちとなった。連立与党の公明は西内を推薦した一方、広田は連日野党系の議員が演説に詰めかけ、また、共産は支援という形で関わり、「共闘」が成立した構図となった。前職の高野は高知にルーツのある議員だったが、この補選で立候補した2人とも、高知県にルーツのある候補であった。

 

 1週間前の情勢では、概ね広田が先行する形となった*5。この段階からは、少なくとも、広田が先行する形で接戦が繰り広げられているものと想定した。基本的には、与党は組織票をまとめ、多少の差がついていても最終的には挽回できるものと私は想定していて選挙の様子を眺めている。

 ところが、蓋を開ければ、広田一にゼロ打ちで当確が打たれ、得票でも大差がついて当選した。西内の惜敗率は60%少しとかなり酷い。事実NHKのサイトで各自治体の結果を見ると、広田は中心都市を筆頭に殆どの自治体で西内を上回った*6投票率は30%全体で、とくに徳島県側で20%台という値が続出し、寂しい結果となっている。

Xユーザーの三春充希(はる)⭐第50回衆院選情報部さん: 「10月22日に投開票が行われる参院徳島・高知県選挙区補欠選挙の情勢報道です。情報を更新しました。 https://t.co/TFfzL01cZN」 / X (twitter.com)

 

 前職の辞職理由が秘書に対する暴力であり、パワハラの極致でもあった。加えて岸田政権の支持が低下している中で、自民党に逆風が吹いていたことは想像に難くない。また、広田一は、21年こそ大敗したものの、17年の衆院選では大臣経験者だった山本有二*7小選挙区敗北に追いやるほどの実力者ではあった。そのため、その点で言えば、候補者の強さも影響したのではないかと見ている。

 

 新聞等の論調では、広田が「県民党」として政党色を薄めた展開を行ったことを分析しており、政党色が無かったことに対する野党の「煮え切らなさ」を指摘しているものが目立った。朝日新聞の有料記事は、後半にこの点に注目している。確かに広田は17年衆院選では無所属*8で、21年では立憲で立候補したため、そういう見方が出てきているのではないだろうか。理解はできるが、Xこと旧Twitterで野党の重鎮議員をウォッチする限りでは、応援に出向いていた様子が見て取れた。加えて先述した通り、共産も「共闘」しているので、野党的なファクタは水面下で働いた点は留意されて良いだろう*9

想定外の苦戦、あぶり出された首相の「弱点」 解散戦略に影響も:朝日新聞デジタル (asahi.com)

 

衆議院補選 長崎4区

 こちらの補選は、21年の衆院選小選挙区当選した、北村誠吾が逝去したことに伴う補選である。自民からは金子容三*10、立憲からは前回の選挙にて高い惜敗率で比例復活した末次精一*11が一度辞職*12し、立候補した。

 

 1週間前の情勢では、両者接戦であり、各紙で金子が先に出るケースと末次が先に出るケースが出るほどに分かれた。接戦ではあったが、この段階では自民がしっかり獲るケースは過去の選挙情勢などを踏まえて考えると多い。そういう意味では、ここは野党系が制する確率は高くはないと判断した*13。結果としては、自民の金子が7,000票ほどの差をつけて選挙戦を制した。もう少し縺れるかと思われた。

Xユーザーの三春充希(はる)⭐第50回衆院選情報部さん: 「10月22日に投開票が行われる衆院長崎4区補欠選挙の情勢報道です。本日の読売新聞、共同通信、長崎新聞を反映しました。各社で名前順が食い違う熾烈な戦いとなっています。 https://t.co/fdN5FEwYWZ」 / X (twitter.com)

 

 差を分けたのは自民が堅実に票をまとめたことと、40%前半という高くない投票率だろう。自治体で見ると、大票田に相当する佐世保市は僅差で末次が制したが、投票率は40%を切った。それ以外の地域では金子を上回った。平戸市では、50%以上の投票率で末次にダブルスコアの差をつけた。このあたりの手堅い戦いぶりは、日経の有料記事や、朝日の有料記事から見て取れる。朝日の記事によれば、父の原二郎が佐世保の知人のもとへ回り、コネクションをフル活用していたようだ*14

「まるで父親参観」そう揶揄された衆院補選 それでも続く世襲の論理 [自民]:朝日新聞デジタル (asahi.com)

自民、地力通りの衆院長崎補選 低投票率でも得票維持 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

 

だいぶ長くなったので、Part2に移る。次は投票率に注目したい。

*1:投票終了時刻直後(大体は20時ごろ)に、メディアが出口調査の結果から分析して、この候補が当選となるだろう、と報じる現象を指す。

*2:なお、殴打された秘書は辞職しているとのことである。

*3:県連の幹事長経験がある。

*4:参院2期・衆院1期。21年の衆院選では、自民から出馬した元知事の尾崎正直に敗北している。

*5:本来、各種新聞報道を総合するべきではあるが、ここではわかりやすいよう、はる(@miraisyakai)の旧Twitterのアカウントを参照した。衆院長崎4区も同様である。

*6:特に地盤ともいうべき、土佐清水市といった高知西部ではダブルスコア以上の差がついた自治体もあった。

*7:衆院11期。17年は比例復活し、21年は比例単独で再選。俳優の井浦新鈴木一真は義理の息子である。

*8:民進の分裂騒動による影響である。

*9:なお、広田側に寝返った自民の地方議員も居た模様。

参考: 参議院徳島・高知補欠選挙、勝利の広田一氏は戦術使い分け : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

*10:元証券会社勤務、金子原二郎元参議の子。祖父の岩三も国政の政治家だったので、容三は三代目ともいえる。

*11:小沢一郎秘書出身の自由党系の方である。

*12:これに伴い、21年衆院選で沖縄3区で出馬し、落選した屋良朝博が繰り上げ当選した。

*13:20%程度と見ていた。

*14:それにしても朝日の見出しはかなり冷ややかな言いようだ。

見出しがアレな話

 朝からTwitterに入り浸るどうしようもない人間なのだが、こうして政治トピックや社会トピックを漁っていると「研究所由来」という文言が目についた*1。おおよそ見当はついたけど、日本語の記事だと以下のものが出た。

新型コロナは「研究所由来」=米エネルギー省が結論―報道 - ライブドアニュース (livedoor.com)

なお元記事は時事通信で、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の記事を下敷きにしている。

新型コロナは「研究所由来」 米エネルギー省が結論―報道:時事ドットコム (jiji.com)

 記事を読むと、アメリカのエネルギー省がCOVID-19のウイルスが「研究所由来」の可能性があると推定したという旨の内容で、大統領補佐官は「肯定も否定もできない」と答えた、という内容である。ややわかりづらいので、英語の記事を漁ってみた。

A Lab Leak in China Most Likely Origin of Covid Pandemic, Energy Department Says - WSJ

 これを読む限りでは、どうやらエネルギー省関係者もこの結論を"low confidence"と判断しているようだ。すなわち確度は低いと推測することができる。ちなみに、この件はGardianもネットで取りあげていて、同様の記述を確認することができた。

Covid-19 likely came from lab leak, says news report citing US energy department | Coronavirus | The Guardian

 この件、時事通信Tweetの引用を見てみると見るからにこの「真偽が定かであるとは到底言えない」話をさも真実めいたものと思い込み、コメントを残しているアカウントがちらほら見いる。こうしてみると、そういうアカウントを運用している人たちは、記事の中身を吟味せずに意見を表明しているのだろう。ひいては陰謀論の温床にもなりかねない。

 少なくとも、これは本邦も、海外のメディアもそうだが、もうすこし見出し、タイトルの内容に関して推敲をしてほしいものである。

 

 

*1:おそらく政治トピックや社会トピックで呟いてばかりいるせいでトピックとして提案されたものと思われる。本アカウントがエンタメばかり取り上げるものであったら違うものがトピックとしてあがるだろう。

遠目からみた函館市長選アレやコレ

 Twitterでは、幾度か道新記事を追ってきた函館市長選について軽くメモしておこうと思う。現時点では、地方紙や雑誌の想定のどおり、現職の工藤壽樹氏と元市職員の大泉潤氏が名乗りを上げる構図となっている。ただし、双方の動きを対比する記事が早いタイミングで出てきている。たとえばこれである。

<デジタル発>「静」の大泉氏、「動」の工藤氏 選挙の常識覆す異例の函館市長選、最新情勢は~:北海道新聞デジタル (hokkaido-np.co.jp)

 函館市といえば、原子力発電所の今後のあり方について関心のある人だと、大間原発の建設差し止め裁判を起こしている自治体と記憶している方も多いだろう(これについては後で軽く触れる)。ただ、上の北海道新聞のデジタル発の記事でも触れているが、大きな争点は、「今後の函館のあり方」、特に経済面でのあり方に重点を置いているようにも思われる。2016年に北海道新幹線が開業されてから、観光客増加による経済効果はいくらか出ていたものの、その効果が落ち着いてきた*1あたりでCOVID-19禍が追い打ちをかけてきている。そういうわけで、双方ともトピックとしてはここに重点を置いている印象である。

 ここから大間原発に関して少々述べる。なお、私が遠目からみた限りでは、函館市長選ではここが「争点」になることは考えづらい。というのは、工藤氏も大泉氏も、大間原発建設差し止め訴訟は継続の方針を打ち出していて、メディアがコメントを押さえているためである。大泉氏には、出馬会見にて「訴訟は継続」の方針を打ち出している。

函館市長選に前市部長の大泉潤氏が出馬へ…大泉洋さんの兄、「選挙と弟の芸能活動は別」 : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)

 一方の工藤氏は、2014年に函館市大間原発建設差し止め訴訟を国に対して起こした中心人物である。この訴訟はいまでも係争中である。訴訟に至るまでの考えとその経過は、函館市のサイトに記載がある。

大間原発の建設凍結のための提訴について | 函館市 (city.hakodate.hokkaido.jp)

 

 なお、国政政党の動きでは、現職工藤氏は自民党道連(道連というのがミソ)からの推薦を得た一方、大泉氏は立憲民主党(道8区総支部が決定)の支持を得た*2

函館市長選 立憲、大泉氏を支持:北海道新聞デジタル (hokkaido-np.co.jp)

 国政政党の観点では推薦(もしくは支持)する候補が別れたものの、大間原発建設の凍結を目指していると言うスタンスでは共通する。したがって、原発問題はトピックとしては大きな争点となりづらい状況となっている。

 

 ところで、東京新聞が2/2に書いた記事がちょっとよろしくない。というのは、この選挙を原発問題で議論しているからである。

大泉洋さんの兄だけではない…今春の函館市長選が原発問題でも注目されるわけとは:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

 見出しからして大泉潤氏の弟で俳優の大泉洋氏を引き合いに出して釣る見出しもいただけない*3が、原発問題の構図を国政の目線から捉えており、地方の争点としてたりえていない側面を掴み切れていない。とくに「凍結派の現職を原発増設推進の自民が推薦」の段落では、道連が推薦した、という言及を一切記していない。その上、自公政権原発再稼働に前のめりな点を強調しながらその矛盾を殊更の強調するのは違和感を抱いた。函館市衆議院北海道8区の大票田であるが、ここではあの自民党の候補ですら大間原発については消極的な姿勢だ。直近の2021年の衆院選では、自民の候補(前田氏)は比例復活も出来ずに落選したが、道新が開催した討論会では、当選した立憲の候補(逢坂氏)とスタンスはさして変わらない。

衆院選北海道8区 候補者討論会(2021.10.15) 立憲民主党前職・逢坂誠二氏、自民党元職・前田一男氏 - YouTube

 また、訴訟を開始した時点では週刊プレイボーイが工藤氏に取材を行っており、工藤氏は原発再稼働には「非常に慎重」というコメントを残しており、原発再稼働とはかなり距離を取っているが、脱原発というわけではないのである*4東京新聞でも矛盾しない、という決着のつけ方をしているが、過去にそうした記事が出ている以上、なぜよく調べなかったのか、という疑問が湧く。

函館市長・工藤壽樹氏に聞く、国にケンカを売ってでも大間原発を作らせたくないワケ - 社会 - ニュース|週プレNEWS (shueisha.co.jp)

 東京新聞の記事の結びでは、当時(2012年)大間原発の建設容認を認めたのは旧民主党政権(当時の経産大臣は枝野氏)でああり、立憲にその責を問おうとする記述があるが、なぜそのスタンスを踏襲するその後の自民党政権にも触れないのだろうか。また、枝野氏は旧立憲民主党を立ち上げた際に、「原発ゼロ」の方針に「転向」していると考えられよう。それであるならば、「転向」について詳細に論じるべきではなかったか。このような意味で、地方(本ケースでは函館)をつぶさに観察しきれていない東京新聞の記事は、非常に読後感がさわやかではなかった。

 

*1:

新幹線開業後の経済効果に関しては、2019年の日銀のレポートを参考にした。つまり、経済効果の落ち着きは、2018年のタイミングで既に起こっている現象としてここでは扱う。

北海道新幹線開業の道南への経済効果と観光振興への視点(2019年3月4日公表分) (boj.or.jp)

*2:なお、工藤氏、大泉氏双方とも、当初は自民・公明・立憲の3党からの推薦を得ようと画策していたようである。

*3:大泉潤氏は「弟の俳優活動は関係ない」と語っているので、それを踏まえるならばこの期に及んで大泉洋氏に触れるのは不見識ではないかと個人的に思う。

*4:週刊プレイボーイのネット記事なので、アイドルのグラビアのページのリンクなどがある。閲覧の際はその点に留意いただきたい。

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 主にTwitterで政治・社会トピックを話してきたけれども、Twitterのシステムがだいぶ変わりそうな状況になってきた。そこで、Twitterでスレッドを設けて長めに書きたい、と思う内容(といいても雑感だけれども)については、はてなブログのほうに残そう、ということでブログを開設した。頻度は高くないですが、長めのネタを書きたい場合はこちらに記事として残す予定。