補選雑感 Part2

 注意: 前回の記事はこちらから。

補選雑感 Part1 - spiroooooool別邸 (hatenablog.com)

 なお、今回も敬称略とする。あしからず。

 

 Part1はざっくりと補選を振り返ったが、Part2では気になっていたことをあれこれ書きたいと思う。

 

両補選はなぜこのような投票率になったのか

まずは一般的な話から

 まずは投票率に触れたい。低投票率の場合は組織票がまとめられる党が有利と見る。本邦ではその立場にあるのは与党の自民党で、低投票率の選挙では勝ち上がる。

 今回の補選を見てみよう。参院徳島・高知の投票率は30%台、衆院長崎4区の投票率は40%台前半にとどまった。補選に関しては、一般的には衆院総選挙や参院普通選挙に比べると投票率が下がるのだ。そのため、先述のとおり、低投票率の選挙で起きる現象は比較的起こりやすく、今回の衆院長崎4区はそれに当てはまる、という見方ができそうだ。一方で、参院徳島・高知選挙区で起きた、一騎打ちで野党が「完勝」したケースは、珍しいと言ってよいだろう*1

 佐藤令の論文*2によれば、補選の投票率が通常の選挙の投票率に比べて低下する*3のは、何も今に限った話ではないようだ。ただし、通常選挙と同日の補欠選挙(例: 衆院総選挙のときに参院補選を行ったケース)は高くなるケースがあるようだ。

 この論文では投票率の推移とその結果に関する考察が主で、低下の原因を考察した事例というのはあまりない。総論として言えるのは、通常時とは異なるタイミングでの選挙である、というところがあるのかもしれない。以降からは各選挙区での「事情」を考えてみる。

 

参院 徳島・高知選挙区の投票率

 NHKの選挙データによれば、参院補選の当選挙区全体の投票率は32.16%だった。双方の県とも、通常の選挙においても、両県は低下傾向にあり、補選ということもあって殆どの自治体で投票率が落ちている*4徳島県に関しては過去最低の記録をたたき出している。

参議補選の投票率、徳島県で「低調」半減近い23・92%…候補2人とも高知県を地盤 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

 

 Part1に引き続き、NHKの選挙データを眺めて考えたい。

参院補選 徳島高知 | NHK選挙WEB

 NHKのデータには自治体ごとの各候補の得票と投票率がわかる。これを眺めてわかるのは、徳島県高知県では、投票率の傾向が違うことが窺える。今回の選挙に照らし合わせれば、徳島県では徳島市や鳴門市を筆頭に、有権者が多い自治体では軒並み20%台という低投票率という記録が残っている。

 一方、高知県は、大票田の高知市こそ30%台前半だが、少し離れた南国市や土佐市、ひいては地方の室戸市や、四万十市あたりでは40%以上の自治体も出てくる。つまり、高知県での投票率は比較的高く、徳島県では低い、ということが見えてくる。

 この理由を考えていきたい。まず考えられるのは、候補者の地盤であろうか。Part1でも触れたが、今回の候補者はどちらも高知の候補者だった*5。徳島の有権者からすると、身近な存在とは言いづらいのかもしれない。

 次に考えられるのは地域ごとの傾向。徳島県のケースを見てみよう。NHK政治マガジンでは補選告示*6前にこの合区の低投票率について考えるコラムをアップしている。これを読むとわかるのだが、高知県も低いのだが、徳島県の低さは際立っている。しかも、合区になってから、ある傾向が見られる。

合区の補欠選挙 カギを握るのは投票率~2023参議院徳島・高知補欠選挙 | NHK政治マガジン

 それは、候補者が高知に縁のある候補者同士の場合、更に投票率が低下する、というものである。高知県ではそういう傾向が見えてこない。また、鳥取・島根合区では、島根県で若干似た傾向がみられる*7。ただし鳥取・島根合区では、与党と野党で地縁が分かれており、島根の傾向はいくらか緩和されている側面があるかもしれない。

 そこから考えると、仮説ではあるが、合区選挙区の場合、その地元に縁があるか、というのが一部の地域の投票行動に現れているのではないだろうか。おそらく今回の補選でも、候補者がどういうことをやってきたのか、というのを理解することが、高知の有権者よりも大変だったのではないだろうか*8。ただし、これは数回の選挙の投票率を見ての結果でしかないので、もう少し観測する必要があるだろう。合区ならでは現象とも思うが、もしかしたら、北海道などで、候補者の地縁を比べながら考えてみると、似たような傾向が見えてくるかもしれない*9

 

衆院 長崎4区の投票率

 こちらは低投票率では与党が制する、という典型的なパターンとなった。そして思っている以上の差がついた。末次の惜敗率は86%台とまずまずだが、情勢を見た感触ではもう少し高い惜敗率*10になると思っていた。これは低投票率の主要因が大票田の投票率が低いことが影響していると考えられる。4区の場合は佐世保市で、ここが40%を切っている。逆に、平戸市や松浦氏は平均よりも高く、こうした地域で金子容三が得票を稼ぎ切った。共同通信出口調査をベースにした解説記事では、無党派の6割は末次精一に票を投じているため、野党候補としては無党派には最低限浸透していたのではないかと考える*11。そうなると無党派層が比較的多い大票田での低投票率は、末次にとっては痛かっただろう。佐世保市は末次の方が得票数は多かったものの、金子との差はわずか1,000票。金子は大票田で最低限の敗北で済ませたのである。

自民党、無党派層獲得で苦戦 衆参2補選の共同出口調査 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

 先に述べた通り、金子の勝因は自民党に近い組織票を集めきったことと、公明からの支援も十全に得たことに他ならない。選挙後には西日本新聞がこういう見出しの記事をアップした*12。きっちり公明の組織票もまとめ切ったのである*13

父・原二郎氏と福岡の創価学会訪ね1万票を“確約” 自民・金子氏が苦戦した選挙戦の舞台裏|【西日本新聞me】 (nishinippon.co.jp)

 組織票をまとめ切れなければ、もっと縺れた結果になっていた。そして、大票田の佐世保市投票率がもう少し高ければ、末次の当選の可能性は多少は上がったのではないだろうか。

 なお、長崎4区での選挙は、この補選が最後となる。先の「10増10減」で長崎県小選挙区は3つに集約されてしまうためである。個人的に気になるのは、衆院議員としての任期で、たとえ通しても任期が短く、何も仕事ができないで終わるのでは、という諦めに近い感情が有権者の心の中にあったのかどうか、というところが気になっている。そしてそれが投票行動に影響したか、ということも。しかしこれは時間をかけて歩いて分析をしない限り、なかなか見えてこないだろう。

 長崎4区の大部分は、旧3区域だった大村市や離島等*14を含めて、新たに3区という形でスタートを切る。構図はまた変わる点は留意したい。

 

補遺: 合区について

 2つの都道府県を選挙区とした合区は、2016年の参議院普通選挙から導入された。記事の末尾の脚注に示した文献の通り*15参議院選区間における「一票の格差」の解消に対する解決案としてこの合区案が導入された。このとき導入されたのが、鳥取・島根と今回のトピックにあがった徳島・高知の2選挙区である*16

 ちなみに、合区選挙区では、これまで自民党の候補が両選挙区で勝ち上ってきていた。今回の補選の結果はそれを覆すものとなった。

 

 

 

 

 

 

 

*1:野党が勝ったケースとしては、𠮷川貴盛が汚職で辞職したことに伴う北海道2区補選で松木謙公が勝った例などがある。ただし、この選挙では自民党員が出馬したものの無所属での立候補となり、自民独自の候補は擁立されなかった。

*2:佐藤令, 戦後の補欠選挙, レファレンス, 695, 76-105, 2005, DLサイト: 戦後の補欠選挙 - 国立国会図書館デジタルコレクション (ndl.go.jp)

*3:昭和・平成初期では通常選挙で60%ほどの率が補選になると40%台後半から50%台になる。

*4:落ちていないのは村長選が同時開催だった佐那河内村や広田の地元である土佐清水市などである。参考: 参院徳島・高知補選 有権者の関心低く 投票率過去最低32.16% 「地元候補いない」の声も /高知 | 毎日新聞 (mainichi.jp)

*5:広田は高知選出の参院議員および衆院議員だった経歴があり、西内は自民党高知県連の関係者だった。

*6:告示日は10月10日。なお、通常の国政選挙は憲法7条でいう天皇の国事行為に相当するために、公示という表現が使われる。ただし、補選の場合、地域が絞られたケースであり、公職選挙法33条等が適用されるため、告示になるようだ。

参考1: 【詳しく】選挙の公示と告示って何が違う?参議院選挙は? | NHK政治マガジン;

参考2: 参議院選挙:選挙の「公示」と「告示」が違うわけ、天皇の「国事行為」にあり : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

*7:とはいえ島根はどちらも50%以上はキープしており、そこまで大きな問題になるかというと、という側面がある。なお、Wikipedia鳥取県島根県選挙区のデータを参考にした。選挙関連のWikipediaは一応使えるシロモノになっている。

鳥取県・島根県選挙区 - Wikipedia

*8:日頃から政治に関心のある有権者を除けば。

*9:参院北海道選挙区は中選挙区なので余計複雑になるが。

*10:90%前後と思っていたし、当確が出るのは22時を越してからになると想定していた。

*11:金子は無党派層からは2割集めたが、浸透にはやや苦労したとみる。

*12:有料記事のため、残念ながら記事の内容は見出しと最初のパートしか分からない

*13:私の旧TwitterのTLでは、男女別の得票率の画が流れてきたが、金子が勝っていた。もしかしたら、この部分の影響があるのかな、と下の西日本新聞の記事の見出しを見ながら思った。

*14:壱岐対馬五島列島

*15:小松 由季, 参議院選挙制度の見直しによる「合区」設置 ― 公職選挙法の一部を改正する法律 ―, 立法と調査, 368、3-15, 2015,

pdf:https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2015pdf/20150904003s.pdf

*16:なお、導入に際しては、当地選出の議員や首長から反発があったという。