遠目からみた函館市長選アレやコレ

 Twitterでは、幾度か道新記事を追ってきた函館市長選について軽くメモしておこうと思う。現時点では、地方紙や雑誌の想定のどおり、現職の工藤壽樹氏と元市職員の大泉潤氏が名乗りを上げる構図となっている。ただし、双方の動きを対比する記事が早いタイミングで出てきている。たとえばこれである。

<デジタル発>「静」の大泉氏、「動」の工藤氏 選挙の常識覆す異例の函館市長選、最新情勢は~:北海道新聞デジタル (hokkaido-np.co.jp)

 函館市といえば、原子力発電所の今後のあり方について関心のある人だと、大間原発の建設差し止め裁判を起こしている自治体と記憶している方も多いだろう(これについては後で軽く触れる)。ただ、上の北海道新聞のデジタル発の記事でも触れているが、大きな争点は、「今後の函館のあり方」、特に経済面でのあり方に重点を置いているようにも思われる。2016年に北海道新幹線が開業されてから、観光客増加による経済効果はいくらか出ていたものの、その効果が落ち着いてきた*1あたりでCOVID-19禍が追い打ちをかけてきている。そういうわけで、双方ともトピックとしてはここに重点を置いている印象である。

 ここから大間原発に関して少々述べる。なお、私が遠目からみた限りでは、函館市長選ではここが「争点」になることは考えづらい。というのは、工藤氏も大泉氏も、大間原発建設差し止め訴訟は継続の方針を打ち出していて、メディアがコメントを押さえているためである。大泉氏には、出馬会見にて「訴訟は継続」の方針を打ち出している。

函館市長選に前市部長の大泉潤氏が出馬へ…大泉洋さんの兄、「選挙と弟の芸能活動は別」 : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)

 一方の工藤氏は、2014年に函館市大間原発建設差し止め訴訟を国に対して起こした中心人物である。この訴訟はいまでも係争中である。訴訟に至るまでの考えとその経過は、函館市のサイトに記載がある。

大間原発の建設凍結のための提訴について | 函館市 (city.hakodate.hokkaido.jp)

 

 なお、国政政党の動きでは、現職工藤氏は自民党道連(道連というのがミソ)からの推薦を得た一方、大泉氏は立憲民主党(道8区総支部が決定)の支持を得た*2

函館市長選 立憲、大泉氏を支持:北海道新聞デジタル (hokkaido-np.co.jp)

 国政政党の観点では推薦(もしくは支持)する候補が別れたものの、大間原発建設の凍結を目指していると言うスタンスでは共通する。したがって、原発問題はトピックとしては大きな争点となりづらい状況となっている。

 

 ところで、東京新聞が2/2に書いた記事がちょっとよろしくない。というのは、この選挙を原発問題で議論しているからである。

大泉洋さんの兄だけではない…今春の函館市長選が原発問題でも注目されるわけとは:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

 見出しからして大泉潤氏の弟で俳優の大泉洋氏を引き合いに出して釣る見出しもいただけない*3が、原発問題の構図を国政の目線から捉えており、地方の争点としてたりえていない側面を掴み切れていない。とくに「凍結派の現職を原発増設推進の自民が推薦」の段落では、道連が推薦した、という言及を一切記していない。その上、自公政権原発再稼働に前のめりな点を強調しながらその矛盾を殊更の強調するのは違和感を抱いた。函館市衆議院北海道8区の大票田であるが、ここではあの自民党の候補ですら大間原発については消極的な姿勢だ。直近の2021年の衆院選では、自民の候補(前田氏)は比例復活も出来ずに落選したが、道新が開催した討論会では、当選した立憲の候補(逢坂氏)とスタンスはさして変わらない。

衆院選北海道8区 候補者討論会(2021.10.15) 立憲民主党前職・逢坂誠二氏、自民党元職・前田一男氏 - YouTube

 また、訴訟を開始した時点では週刊プレイボーイが工藤氏に取材を行っており、工藤氏は原発再稼働には「非常に慎重」というコメントを残しており、原発再稼働とはかなり距離を取っているが、脱原発というわけではないのである*4東京新聞でも矛盾しない、という決着のつけ方をしているが、過去にそうした記事が出ている以上、なぜよく調べなかったのか、という疑問が湧く。

函館市長・工藤壽樹氏に聞く、国にケンカを売ってでも大間原発を作らせたくないワケ - 社会 - ニュース|週プレNEWS (shueisha.co.jp)

 東京新聞の記事の結びでは、当時(2012年)大間原発の建設容認を認めたのは旧民主党政権(当時の経産大臣は枝野氏)でああり、立憲にその責を問おうとする記述があるが、なぜそのスタンスを踏襲するその後の自民党政権にも触れないのだろうか。また、枝野氏は旧立憲民主党を立ち上げた際に、「原発ゼロ」の方針に「転向」していると考えられよう。それであるならば、「転向」について詳細に論じるべきではなかったか。このような意味で、地方(本ケースでは函館)をつぶさに観察しきれていない東京新聞の記事は、非常に読後感がさわやかではなかった。

 

*1:

新幹線開業後の経済効果に関しては、2019年の日銀のレポートを参考にした。つまり、経済効果の落ち着きは、2018年のタイミングで既に起こっている現象としてここでは扱う。

北海道新幹線開業の道南への経済効果と観光振興への視点(2019年3月4日公表分) (boj.or.jp)

*2:なお、工藤氏、大泉氏双方とも、当初は自民・公明・立憲の3党からの推薦を得ようと画策していたようである。

*3:大泉潤氏は「弟の俳優活動は関係ない」と語っているので、それを踏まえるならばこの期に及んで大泉洋氏に触れるのは不見識ではないかと個人的に思う。

*4:週刊プレイボーイのネット記事なので、アイドルのグラビアのページのリンクなどがある。閲覧の際はその点に留意いただきたい。